介護による貢献、相続への影響は? 民法、相続ルールの改正を検討

現在、改正が検討されている民法の相続ルールについて、以前「配偶者の貢献に配慮 民法改正で相続ルールが変わる?」という記事を掲載しました。
引き続いて今回は、改正検討項目に絡めて、近年問題になることの多い「介護」と相続の関わりについてお話しします

改正が検討されている主な項目


(1) 配偶者の居住権保護
(2) 配偶者の本来の貢献に応じた遺産分割の実現
(3) 寄与分制度の見直し
(4) 遺留分制度の見直し
(5) 自筆証書遺言の方式緩和

介護による貢献、相続への影響は?




今回は、(3)寄与分制度の見直しについてお話しします。

特定の相続人が亡くなった方に特別の貢献をしていた場合、遺産分割において「寄与分」が認められる定めが民法にあります。

寄与分が認められるには、亡くなった方の「財産の維持または増加」に対し「特別の寄与」があったことが条件となります。

亡くなった方(親)への貢献というと、療養看護が代表的なものですが、子による介護は扶養義務として行うのであって「財産の維持または増加」への寄与とは認められないのが一般的です
 
また、扶養義務は本来子どもが平等に負うべきものですが、実際は、子が複数いたとしても介護を行ったのは一部の人のみであることが多く、介護負担の偏りが問題視されています

そこで、「財産の維持または増加」に限らず、介護による寄与分を認めようというのがこの検討項目です。これに伴い、寄与分の算定基準をどう捉えるかといった課題もあります。

“内助の功”と同様に、介護や扶養義務はなんといっても貨幣金額的に表しにくく、このことが問題を難しくしています。

私たちが昨年、お客様を対象に行った介護と相続に関するアンケートによると、介護の金銭的負担に加え時間的・精神的負担は筆舌に尽くしがたく、またその苦労は他の相続人に理解されにくい、というコメントが多数寄せられました。

また寄与分が認められるのは相続人のみに限定されるため、相続人ではない「長男の嫁」などが介護を担っていた場合には、その貢献が考慮されないことも依然、問題としてあります

扶養義務相続権」、これこそがこの問題の主戦場でしょう。

以下は私の考えですが、皆様はどうお考えになるでしょうか。

・扶養義務違反について罰則(相続権の剥奪や制限など)を設ける…?
ただ、やむを得ない事情により外国で暮らしているなど、扶養義務を果たしたくても果たせない状況にある人についてはどうする…?

・扶養義務を果たす人を生前に届け出れば相続分の増額(相続権の付与)を認める…?
しかし、そもそも扶養義務とはどこまでの範囲(行為)を指すのか。
扶養義務の実行を監視する人や組織を設けることは現実的ではなく、しかし監視なき届出は意味がない。

難しい課題の多い民法改正の中でも、家族の形や女性の立場に直結するこの項目は、最難関のものと感じます。


女性と相続の今後


今回の民法(相続法)の改正検討項目は、配偶者(多くの場合、妻)への保障や介護問題が中心に盛り込まれていることから、女性がクローズアップされた改正であるように私には感じられます。

家族関係(特に女性と家族との関係)、女性と社会との関係が移行期にある今、民法の改正を行うというのは実に大変な作業だと思います。しかし、避けては通れない問題でもあります。

視点を変えると、介護問題が相続トラブルに発展するケースが増えているのは、女性の権利が昔よりも世間に認められてきたという証拠なのかもしれません

女性の社会進出をさらに促し、女性が今よりももっと男性と協働できる社会、家族と協働できる社会、社会そのものに深く関われる社会を作り上げるために、ぜひいい形で民法が改正されてほしいと思います。


内縁関係の場合は?


 
さらに踏み込んで言うと、そもそも自分の家庭を持たない人も増えつつあります。

例えばLGBTの方なども、法律上の婚姻関係を持たない人が多いと思われます。

LGBTの方たちの相続問題については、今回の相続法改正の中ではあまり意識されていませんが、決してタブー視することなく今から法整備を進めておかなければ、20年後30年後には必ず社会問題になると私は思います。

内縁関係における相続問題も考えるべきところは多いでしょう。事実婚の形をとる方も増えていますが、法律上の夫婦でなければ、相続権は発生しません

事実上、どれほど日常生活を支えたとしても、その貢献に対して今の民法は何も応えられません。

男女関係の多様化も進む現在です。内縁関係を、社会的に決して容認されない「不倫」と同視せず、問題に向き合う必要があると思います。(執筆者:髙原 誠)

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