ストレスで知らぬ間に陥るアルコール依存症の症状と現実的対策

 「自分は強いから、アルコール依存症なんて関係ない」と思っていませんか。アルコール依存症は、アルコールをたしなむ人全てに共通して潜んだリスクです。特に日頃からストレスが多く、お酒の席も多い経営者は、アルコール依存症にかかりやすいと言われています。そこで本稿は、アルコール依存症の症状と現実的対策を解説いたします。

知らぬ間に羅患してしまうアルコール依存症


 経営者となれば、取引先とのお付き合いや部下たちの慰労などで、断りにくいアルコールの席を持つ機会が増えるものです。

 また、ストレスの多い日常を過ごしているため、日頃の嫌なことを忘れるため、疲れた体を眠りにいざなうため等、様々な理由でアルコールを飲む機会が増えた方もいらっしゃることでしょう。

 個人差こそあれ、アルコールを飲み始めた当初は、誰しもすぐに酔っぱらえたはずです。

 しかし、アルコールは、飲み続けるうちに弱い人でも、MEOS(ミクロソームエタノール酸化系酵素)と呼ばれる酵素により耐性ができます。

 焼酎やウイスキーなど強いお酒を飲んでも、簡単に酔えなくなり、飲酒量が増えていきます。

 こうして脳には、気持よく飲んでいる時の感覚や記憶が刻まれ、酔って気持ちよくなる経験を重ねるほどに、依存性が高まっていきます。

 更にアルコールの依存性に頼り続けていると、やがて羅患するのがアルコール依存症です。

 アルコール依存症は、麻薬や覚醒剤、シンナーなどの依存症と同じで、問題があるとわかっていてもやめられない症状です。

 本稿では、アルコール依存性で現れる症状と功罪、そして対策について考えてみたいと思います。

アルコール依存症の典型的な症状例とその功罪


 アルコール依存症の典型的な症状は以下のとおりです。
  • 程よい程度で切り上げられず泥酔するまで飲んでしまう
  • 飲酒を中心とした生活スタイルになりお金を浪費する
  • 仕事や家族生活などが疎かになる
  • 酩酊時の記憶が全くない
  • 自分より弱いものに対して攻撃的な言動を取るようになる
 どれも、経営者から会社のマネジメント能力を奪う恐ろしい症状です。

 断酒をしても、アルコールをほんのわずかでも口にすると、タガが外れ、浴びるように飲んでしまいます。これは、断酒期間の長短に関係なく、アルコール依存症に共通する症状です。

 アルコール依存症の功罪で一番重いものは、妻や子どもといった家族への暴言や暴力を伴うDV、自殺衝動、被害妄想(配偶者が不倫しているなど)など、自傷・他傷行為に制御が効かなくなることです。

 そのような患者に見られる特徴的な心理状態は、自己に対する怒りや嫌悪、焦りです。

 自分が悪いことはわかっているけど、それを是正できない自分自身に対する苛立ちや不信、怒りといった強烈な感情が、攻撃的な発言や暴力となって身近なものへ向けられます。

 また質の悪いことに、アルコール依存症にかかっている人ほど、シラフの時には、アルコール依存症は、意志や精神的に弱い人の問題であって自分には関係ない、あるいは自分は管理して飲んでいるから大丈夫、と考えている方が多いです。

 しかし、よく考えてみると、アルコールに対するこれらの考え方は、アルコールをたしなむ人全てに共通したものではないでしょうか?

 アルコール依存症対策の第一歩は「脳がアルコールを求める」精神疾患だと理解するから始まります。

アルコール依存症患者が取るべき3つの対策


 では、ここからは、自分もしくは、周囲の人間がアルコール依存症になっている場合、具体的にどのような対策をたてる必要があるのか考えてみましょう。

1)最寄りの精神保健福祉センターで相談する



 アルコール依存症対策は、自らもしくは家族(同伴含めて)が精神保健福祉センターに相談することから始まります。精神保健福祉センターは、市町村単位で設置されているので、最寄りのセンターへ向かいましょう。

 センターでは、カウンセラーが症状の程度をヒアリングし、アルコール依存症を治療できる病院を紹介してくれたり、本人に改善の意志があるなら断酒会を紹介してくれたりします。

 もっとも、アルコール依存症にかかっている本人は、最初のうちは現実を否定するケースが多いため(家族が秘密で相談に行く場合もある)、複数回の面接を通じて判断します。

 本人がアルコール依存症を否定する場合は、家族がお酒を止めさせる強い意志を持ち、根気強く相談を重ねる必要があるでしょう。

2)病院での診断と治療・ひどい場合は入院治療を行う



 もしも、本人とともに病院を訪れて、診断を受けることが出来るなら、病気の認識と治療の動機づけを行い、治療をはじめます。

 それでも本人が自分の意志でお酒を止められない場合、治療方法は入院へと変わります。入院中は断酒を中心とした離脱治療、アルコールによる合併症の治療などが行われ、断酒が習慣化したらリハビリテーションを開始します。

 リハビリ前期では、メンタルヘルスなどを通しての精神の安定化、社会復帰の準備として社会生活技能訓練を行います。

 リハビリ後期では、断酒継続、ストレスを感じたときにアルコールで解決しない方法を学び、習慣化する行動を訓練し、家族機能の回復をサポートを受けながら、退院して社会生活を開始します。

3)断酒会への参加



 治療や入院と同時並行で、アルコール依存症患者の集まりである断酒会への、自発的な参加が勧められています。

 これらは、自助組織となっており、患者本人だけのクローズドミーティング、家族や関係者も含めたオープンミーティング、女性のアルコール依存症患者を集めたミーティングなどが行われています。

家族は出来ることの限界を決める必要がある


 以上がアルコール依存症の対策、治療の流れとなりますが、すんなりと行かないのが、アルコール依存症のやっかいなところです。

 先述の通り、アルコール依存症患者の多くは、自分が病気であることを認めたがりません。

 いわゆる、自覚なきアルコール依存症患者が殆どなのですが、日本では、人権上の問題から、本人の意志に反して強制入院させることが難しくなっています。

 そのため、かたくなに病気であることを否定したり、治療を拒絶する場合は、治療どころから診断もできません。

 この現実に悩み、心を痛めるご家族は、非常に多くいらっしゃいます。

 このような場合、精神保健福祉センターからも同じことを言われると思いますが、肝臓や腎臓、高血圧、ED、痛風、循環器系の病気に対しての治療という名目で、治療を開始できるケースがあります。

 これらの治療には、断酒が欠かせないからです。

 最寄りの病院で疾患の診察を受け、断酒しなければ治療できないという事実を、医師の力を借りて認識してもらい、依存症治療専門病院で診断してもらう流れを作りましょう。

 もっとも、本人が感づいて治療を拒否するケースがあるのも現実です。

 更に、家庭内暴力を振るったり、攻撃的な言動をする場合の対策が最も困難です。

 このような場合には警察に被害届を出したり、精神保健福祉センターなどの第三者期間に連絡して措置入院を求めるなどの方法があります。

 一時的に実家に戻り、専門病院での診察を受けた後に帰宅するといった方法もありますが、約束しても守らないといったことも多いので、あまり期待しないほうが良いでしょう。

 DVにより命の危険を感じるようであれば、弁護士に相談したり、DV支援をしている団体や施設を頼る必要がありますし、最悪な場合、警察などの第三者機関を巻き込んだ対策が必要になります。

 アルコール依存症の家族に対して悩んでいる方は大勢おられます。一番大事なのは、病気の症状や原因によって、家族としてできること、できないことがあることを自覚することです。

 最後になりますが、アルコール依存症は全てを破壊します。ご自分にもし兆候を感じるならば、早期に治療へあたられることを強くお勧めいたします。(執筆者:株式会社iCARE)

【関連記事】