社員と会社間の解雇トラブルを防ぐため経営者に求められる2つの視点

 解雇した社員から不当解雇で訴えられるニュースは後を絶ちません。世間から悪者にされるのはもちろん、長い裁判の過程は経営者を精神的に苦しめます。つまり、無用な解雇トラブルは一つの得も会社にもたらしません。どうすれば問題社員との間で無用な解雇トラブルを起こさずに済むのか?2つの視点をご紹介します。

無駄な解雇トラブルを防ぐことが節約に繋がる


 10月に入って、ワーナーミュージック・ジャパンで正社員を含む30人が一斉に同社を離れ、そのうち一部の社員が不当解雇の訴えを起こしていることが話題となっています。

 報道によると、元従業員は事前説明にそぐわない形で解雇されることになり、しかも突然の形で有無を言わさずに会社から解雇を言い渡されたと主張しています。

 このように、企業が解雇した従業員から不当解雇で訴えられて、多額の損害金や和解金支払いのリスクを負う形となっているニュースは日常茶飯事で起こっています。

 ニュースで悪者扱いされるのが経営者であることはもちろん、解雇トラブルは他の労働トラブルと比較にならないほど、経営者に大きなストレスを与えます。

 また、解雇トラブルは解決に多大な時間と労力を要してしまうため、経営資源から考えても目に見えない大きな損失を生みます。

 そのため、無用な解雇トラブルを起こさないための知識を知っておくことは、経営者にとって節約を実現するうえで重要なポイントとなります。

 そこで本稿は、無用な解雇トラブルに巻き込まれないために、経営者が持つべき2つの視点を考察したいと思います。

 1つ目は「段階的な処分を下す視点」であり、もう1つの視点は「常に客観性を保つ視点」です。

解雇トラブルを起こさぬ秘訣は「段階的な懲戒処分」を行うこと


 まず、最初の視点である「段階的な処分を下す」について考えてみましょう。

 これは、言葉だけ聞けば「当たり前のことじゃないか。」と思われるでしょうが、多くの経営者が本当の意味では意識していません。

 重大な犯罪を犯した場合は別として、経営者が従業員を解雇しようと考える時は、ほとんどが従業員の能力不足や問題行動に端を発します。

 問題のある労働者に対して最初の数回は注意するのですが、その後は何もせず諦めの境地に達し、何処かの時点でいきなり「これ以上は我慢できない」という決断を下し、解雇に至ってしまいます。

 しかしながら、日本は労働者保護の風潮が非常に強いため、解雇トラブルで裁判になった場合には、経営者に厳しい裁決が下りやすい現状が存在します。

 特に能力不足といった主観的な要素が強い解雇では、経営者の主張が認められるためには、余程の説得力がある「強い証拠」が必要となります。

 従って、解雇の前に懲戒処分として、解雇以外にも訓戒や始末書の提出、減給や出勤停止といった規定を活用する必要があるのです。

 いきなり懲戒解雇処分をするのではなく、段階的な懲戒処分を課していくことで、従業員が改善の方向に向かうなどの解決への道が開ける可能性を探さねばなりません。

 ワーナーミュージック・ジャパンの場合もそうですが、いきなり解雇の措置が下ったために、従業員も感情的になってしまいトラブルが大きくなってしまいます。

 段階的に懲戒処分を課すことで、従業員に対して改善の機会を与え話し合いを重ねて行けば、解雇という結果にならず何らかの解決策を見出すことも可能かもしれません。

 また、この対応を取ることが、次にお話しする「常に客観性を保つ視点」にも深く関係しています。

万が一のトラブルに備え解雇対象従業員についての客観的な証拠を用意する


 解雇トラブルに巻き込まれないために必要なもう1つの視点は、先述の通り「常に客観性を保つ視点」です。

 解雇トラブルは、あくまで民事的な争いなので、行われた解雇が正しいのか正しくないのかの判断は、法律の基準があるのではなく、裁判等によって判断されます。

 裁判等で勝訴するためには、その正当性、妥当性を証明しなければならなず、証明するためには客観的な証拠が重要となります。

 では、客観的な証拠とはどのようなものでしょうか?

 客観的な証拠とは、始末書の提出や減給といった解雇に至るまでに行われた懲戒処分の事実に基づき、これを証明する客観的な証拠(書類等)となってきます。

 つまり、「解雇に至るまでに、会社としてもいろいろと手を尽くしたが、それでも解雇せざる得なかった。」という事実があって、初めて解雇の正当性、妥当性が、認められる可能性が生じるのです。

 私も解雇の相談を受けた時に度々経験するのですが、トラブルに巻き込まれた経営者は従業員の問題点を延々と訴えるのですが、客観的な証拠が全くと言っていいほど無いケースばかりです。

 経営者の言うことが本当であっても口頭の発言だけでは、裁判等で勝訴することはおろか戦うことすらできません。

  社員を解雇しなければならない時は、「常に客観性を保つ」ために、必ず証拠を揃えるようにしましょう。

解雇に使おうとしたデータを用いて従業員の適性を把握できるのが一番ハッピー


 ここまで、解雇トラブルをおこなさないために、
  • いきなり解雇せず段階的に対応する
  • やむを得ず解雇する場合にそなえ客観的証拠を整える
 という視点の大切さをお伝えしてきました。

 さて、この2つの視点を持つことは一つの効用を生じさせます。

 これらの視点を持って従業員と接する際には、その従業員についての膨大なデータが発生します。

 実はこのデータは、問題のある従業員の特性を把握し、改善の機会を与えることに転用することが可能なのです。

 解雇トラブルに巻き込まれないために準備したデータの活用による最もハッピーな結果は、そのデータを活用し従業員の特性を適切に把握し、適所にあてることで従業員に気持ちよく働いてもらい、成果を出してもらうことではないかと思います。(執筆者:経営者応援.com)

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