佐川急便配達員の荷物叩きつけ事件が物流業界に警鐘する本質的な問題とは?

 年末の繁忙期にユーチュブへアップロードされたことで発覚した「佐川急便配達員の荷物叩きつけ事件」。現場の配達員への負荷は年々高まる一方で、「送料無料」や「スピード配送」に対する消費者の期待や、通販事業者のサービス競争は高まり続けてます。どのようにすれば持続可能な物流事業を成り立たせることは可能となるのか?検証致します。

佐川急便配達員の荷物叩きつけ事件〜物流業界の実状


 年末の繁忙期にユーチュブへアップロードされたことで発覚した「佐川急便配達員の荷物叩きつけ事件」。

 衝撃的な動画でしたが、従業員のモラル問題にとどまらず、背景には、やはりネット通販の普及と、現場の労働者の負担があると思います。

 ネット通販の普及に伴い、宅配便利用は増加の一途をたどっています。

 国土交通省によると、平成27年度の宅配便取扱個数は37億4,493万個(うちトラック運送は、37億447万個、対前年度比3.8%増)。

 10年前の平成17年度の29億4100万個から約8億個(約27.3%)も増加しています。

 さらに、環境省の調査では、1日の持出個数に占める不在再配達個数で割り出した宅配不在率は23.5%、国交省の調査でも、全訪問回数に対する不在訪問回数で割り出した不在率は19.1%となっており、不在配達に費やされている労働時間は、年間約1.8億時間と算出されています。

 他方、「送料無料」や「スピード配送」に対する消費者の期待や、通販事業者のサービス競争は高まる一方です。

 そこで本稿は、ECを取り巻くこれからの物流サービスについて考えてみました。

現場の実状と裏腹にサービス競争は止まらない


 昨年4月にアマゾンが「全商品送料無料」を止め、2000円未満は送料350円としましたが、2,000円以上の通常配送であれば無料です。

 また、プライム会員であれば対象エリア(東京23区全域)での買い物が1時間以内に届く「Prime Now」を提供しています。(合計金額2,500円以上、1時間配送890円、2時間配送無料)

 対抗するヨドバシは「配達料金無料でご注文当日お届け」サービスを、日本全国人口カバー率75.04%、翌日配達エリアを含めると日本全国人口カバー率98.55%にまで拡大しています。

 このような物流環境の中、政府は、物流施策や物流行政の指針である「総合物流施策大綱(2013-2017)」(※)において、抜本的な物流効率化のためには、サプライチェーンを構成するメーカー・卸売・小売と物流事業者が連携し、生産・調達・在庫管理まで含めた物流全体の効率化を進める必要がある、としています。

 また、送料無料記載にまつわる問題としては、「送料無料と銘打った商品の販売が広く行われ、消費者が物流コストを正しく認識しづらい状況にある」と指摘しています。

 しかし、ある意味、消費者にとっては物流コストを誰が負担していようとも関係なく、同等のサービス・商品であれば一円でも安く買える方が嬉しいのは当たり前です。

 なぜなら、全てのコストは、最終的に消費者が支払っているからです。

 そういう意味では、通販事業者の「送料無料」をセールスポイントにするサービス競争が止まることはないでしょう。

スピード至上主義と別にサービスの基軸を模索する必要がある


 それでも、配送コスト削減のために再配達を減らすことは何とかできそうです。

 国交省が2015年に実施した「再配達に関する消費者意識調査」によると、再配達になった理由として最も多かったのは「配達が来るのを知らなかった」が40.9%。

 次いで、「配達が来るのを知っていたが、用事ができて留守にしていた」が25.7%となっています。

 このような課題への配送事業者の最先端の施策として、ヤマト運輸では昨年11月、LINE上でお届け日や不在連絡通知だけでなく、荷物状況を確認したり、配達日時や場所を変更できるサービスを導入しました。

 「宅配の再配達の発生による社会的損失」が減らせるように、スピード至上主義ではない、消費者目線に立った配達日時・方法の指定・通知方法、配達方法の改善、受取という物流への消費者の積極的参加など、通販事業者、物流・運送事業者、消費者との連携協力が今後ますます進んでいくことに期待しています。

 物流は、重要な社会インフラであり、将来にわたって持続可能な事業として発展していってほしいと思います。

※総合物流施策大綱(2013-2017)
政府における物流施策や物流行政の指針を示し、関係省庁が連携して総合的・一体的な物流施策の推進を図るものとして、2013年に閣議決定された

Photo credit: theglobalpanorama via Visualhunt.com / CC BY-SA(執筆者:久保 京子)

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