ミッション・理念・ビジョン・クレドはそれぞれ何を意味するの?

 経営は、ミッションと理念、それからビジョンにクレドも大切だと言われており、これを解説する本も書店に沢山並んでいますが、その定義を聞かれるとなかなか答えられないものです。似ているようで微妙に違うこれらの言葉は、それぞれ微妙に違った意味を持っています。それぞれの違いに触れながら、なぜこれら抽象的な概念が重要なのか解説いたします。

ミッション・理念・ビジョン・クレドって一体なんだ?


 経営は、ミッションと理念、それからビジョンにクレドも大切だと言われており、それに関する本も書店に沢山並んでいます。

 でも、ミッションとビジョンは何がどう違うんだ?

 理念と社訓って同じことじゃないのか?

 最近、クレドという言葉をよく聞くけど、これって一体何のこと?

 こんな疑問を持った方もいらっしゃることでしょう。

 また、これらの言葉は混同されて使われていることも多くあります。

 そこで本稿は、
  • ミッション
  • 理念
  • ビジョン
  • クレド
 これら4つの違いについてご説明したいと思います。

ミッション・理念・ビジョン・クレドの定義


ミッションとは?


 ミッションとは、企業が誰に対してどんな価値を提供するのか?どんな貢献をするのか?を明文化したものです。

 つまり、ミッションとは「自分たちは、これをやらなければ活動する意味がない」といえる本質的なものです。

 キャノンの例を見ると、「先進的な“イメージング&IT“ソリューションにより社会課題の解決に貢献する」といったように、提供する価値を明文化し、ミッションとして掲げています。

理念とは?


 理念とは、ミッションを実現していくために、会社として大切にするべき価値観のことです。

 創業以来、代々引き継がれている社訓は理念に該当している場合が多いと思います。

 たとえば、クロネコヤマトの理念は、「全員経営」「サービスが先、利益は後」です。

ビジョンとは?


 ビジョンとは、ミッションを前提にして、具体的に将来、自分たちの企業が「こういうふうになる」という像を明確にしたものです。

 本田宗一郎が町工場だった頃、みかん箱やらリンゴ箱に乗り、従業員を前にして「ウチは世界一の二輪車メーカーになる」と言いました。

 これが、ホンダのビジョンだったのですね。

クレドとは?


 クレドとは、ラテン語で「信条」「志」「約束」を意味する言葉で、社員一人ひとりが行動する際の具体的な行動指針を指します。

 ミッションや理念を現実のものにしていくために、常にどんな指針のもとに行動していくのかを明確にしたものです。

 例えば、「相手の良いところを見つけてお互いに誉め合おう」「明日やろうはバカ野郎」というクレドを作る企業もあります。

なぜ抽象的な価値観を明文化したほうが良いのか?


 さて、中小企業の経営者や個人事業主に対して、金融機関の人の一部には、「経営理念のような抽象的なことを言っている経営者は業績が悪い。そんなことよりもっと売上げや利益を上げることを考えるべきだ。」とおっしゃる方がいます。

 また、「経営理念なんて、会社が大きくなってから考えればいいこと。たった一人で起業しているような場合、理念を考える暇があったら、どうしたら売上げを上げるかを考えることに集中すべきだ。」とおっしゃる方もいます。

 本当に経営理念は企業の業績とは関係なく、これを掲げることは経営者の自己満足なのでしょうか?

 このことについて、「日本でいちばん大切にしたい会社」というベストセラーを書いている法政大学の坂本光司教授は、次のように言っています。

「これまで多くの会社を見てきましたが、優れた理念を持ち、経営者自身がその体現に努める企業は、厳しい環境の中でも安定した経営を続けています。正しき経営は滅びず、欺瞞に満ちた経営が滅ぶのです。」
 また、小売業などの店主の方々が購読している雑誌「商業界」は、1997年に「商業界五十年宣言」を起草し、以下のような声明を発表しています。

商業界は真の商人とともに生きていた。
志をもった商業人とともに歩んできた。


はじめはみな、小さな店だった。
小さな店はまず、一人のお客様を満足させた。
店の中には、人の心の美しさがいっぱいに満たされていた。


やがて多くのお客たちに、さまざまな地域に、
小さな満足は広められていった。


店は客のためにある。
損得よりも善悪を先に考える。
そのために滅びてもよし、断じて滅びず


――この商業界精神を貫いた店々に繁盛がもたらされ、
この商業界精神に基づく技術を獲得した企業に利益が与えられた。
 昭和7年、松下幸之助が全店員の前で「水道哲学」を語り、250年にも及ぶ壮大な事業計画を語り終えた時、会場は感動と興奮で包まれたと言います。

事業は単に営利だけを目的としてはいけない。

事業とは社員、顧客、そして社会全体の幸福を実現するためのものだ。
 昭和7年、ときは世界恐慌の混乱の年、日本でも失業者が街に溢れ松下電器も膨大な在庫を抱えて喘いでいました。

 そんな中、松下幸之助は高らかに「水道哲学」を語り、自分たちの使命を明確にしたのです。

 松下幸之助の使命感と志に感じ入った店員たちは、全員で一丸となって在庫をすべて売りつくしたといいます。

 これらのことに鑑みれば、抽象的な概念を企業の指針として持つことはとても重要だと言えそうですね。(執筆者:大場保男)

【関連記事】