キーワードは「ぶつける」繰越欠損金を活用した4つの節税対策

 繰越欠損金とは、会社が赤字の状態となったときに、これを翌年以降に繰り越すことで、翌年以降の利益と相殺できる赤字額のことです。繰越欠損金の計上は9年間しか認められておらず、使いきれなかった場合は消えてしまいます。そこで本稿は、繰越欠損金を活用した4つの節税対策をご紹介します。キーワードは「ぶつける」です。

繰り越した赤字があるなら繰越欠損金をぶつけた節税が可能


 繰越欠損金(くりこしけっそんきん)というキーワードを読者の皆さんはご存知ですか?

 この言葉は噛み砕くと
  • 欠損金⇒赤字を
  • 繰越⇒くりこす
 という意味になります。

 つまり、繰越欠損金とは、会社が赤字の状態となったときに、これを翌年以降に繰り越すことで、翌年以降の利益と相殺できる赤字額を言います。

 ただし、9年経っても使いきれない場合、この繰越欠損金は消えてしまいます。(今後は10年に延びる予定です)

 もし1000万円の赤字があっても、1年に100万円ずつしか使わなければ100万円使いきれずに余っちゃう、ということですね。

 この使いきれなかった繰越欠損金は、
  • 会社が解散するとき
  • 会社更生法や民事再生法などの適用を受けるとき
 などの「会社が傾いたり潰れてしまったり」といった特殊な場面でないと使うことができません。

 従って、使いきれずに消えてしまうのは非常にもったいないんですね。

 使っても使わなくてもその年の税金は変わらないんですが、利益の出るものを早めにぶつけてしまうことで、未来の税金を少なくすることが可能になります。

 そこで本稿は、4つの効果的な繰越欠損金の活用方法をご紹介します。

 キーワードは、「ぶつける」です。

其のイチ〜利益の出る保険などを解約して繰越欠損金にぶつける


 生命保険をかけている会社さんで、タイミングがよければ、その年に解約すると利益が発生する保険があります。

 利益が出る保険の大半は、支払ったときにある程度の金額が費用になっているはずです(節税を兼ねて加入していることも多いです)。

 もし繰越欠損金が消えてしまうのであれば、この解約益と繰越欠損金をぶつけてしまいましょう。

 保険はタイミングによって戻ってくる金額が違ったり、資金繰りへの影響があったりするので、必ずしも繰越欠損金が消えてなくなる年に解約する必要はありません。

 「繰越欠損金はいつ消えそうか(このままでは消えそうにないか)」

 「自社の利益をどれぐらい出せるのか」

 などを踏まえて、消えそうになければ少し早めのタイミングでもよいので、計画的に解約を検討していきましょう。

其の二〜含み益のある資産を売却して繰越欠損金にぶつける


 バブル崩壊後に買った物件が大幅に含み益が出てる〜!みたいなことってありませんか?(羨ましい)

 会計や資産運用の世界では頻繁に「含み損」「含み益」という言葉が出てくるのですが、
  • 含み損のあるもの⇒売ったら損が出るもの
  • 含み益のあるもの⇒売ったら利益になるもの
 と、要は決算書に残っている金額と実際に売れる金額が違うときに、こういった言葉を使います。

 含み損のあるものは、売ることで直接的に税金を減らす役に立ったりしますが、含み益のあるものは消えそうな繰越欠損金とぶつけることで、節税に活用することが可能です。

 これは、不動産のような固定資産だけでなく、株や社債・国債などを活用しても使える技です。

 日頃から「自社がどんな固定資産を持っているのか」を把握しておいて、いざという時に繰越欠損金とぶつけられるよう意識しておくと良いでしょう。

其のサン〜債務免除をしたら繰越欠損金にぶつける


 株主や経営者など、誰かから会社が借りたお金のうち、返せる見込みのないものを放棄してもらう手続きのことを「債務免除」と言います。

 繰越欠損金が消えるタイミングに合わせて債務免除をぶつけることで、繰越欠損金を消すのにも役立てることができます。

 こちらもやはり、計画的に繰越欠損金と利益を把握しておいて、タイミングを逃さないように対策を打ちましょう。

 また、この対策には、「自己資本比率が向上する」、という効果もあります。

其のヨン〜(裏技)減価償却しないで出した利益に繰越欠損金をぶつける


 これは、「裏技」と書いているだけあって、あんまり大っぴらにできるものでもありません(^_^;)

 特に、決算書を銀行さんなどに毎年見せているような会社さんでは、おすすめできない小技ですね。

 前提として、
  • 繰越欠損金が使い切れない
  • 決算書を銀行などに見せていない
 という条件を2つとも満たす会社さんが対象になるでしょう。

減価償却を行わず利益を出す


 特にマンションなどの建物を買った場合に、減価償却費が大きくて利益が出にくい(赤字になってしまう)会社さんがあります。

 建物は長いと50年ぐらいの長期間で費用にしていくため、繰越欠損金の9年と比べると減価償却のほうが明らかに長いんですね。

 こういう場合、あえて減価償却費を少なくして利益を出すことで繰越欠損金とぶつけると、繰越欠損金を活用することができます。

 もし、毎年ある程度の金額の減価償却費があって、繰越欠損金が使いきれない可能性が高いのであれば、一度検討してみましょう。

なぜ「決算書を銀行などに見せていない」ことが必要なの?


 「なぜ決算書を銀行などに見せていないことが必要なの?」と疑問に思った方がいるかもしれませんが、実は減価償却費というものは正しい金額より少なくしちゃダメなものなんです。

 会計の決まりで、「毎年一定のルールに従ってきちんと費用にしなさいよ」、ということが決められています。

 なぜかというと、今回のケースのように減価償却費を少なくすることで、会社の実態以上に利益を出すことができてしまうからです。

 ただ税務署に関しては、「本来の金額以上に費用にしてなければ、まあそこまで口うるさくは言いません」というようなところがあるので、あくまで
  • 社長一族が株主
  • 銀行のような第三者とのお金の貸し借りがない
 という状況の場合に例外的にできることがある、という方法です。

繰越欠損金の活用はあくまでも救済措置の1つ


 いかがだったでしょうか?

 繰越欠損金は赤字会社さんの救済措置制度の1つですが、裏を返せば、確定した利益を相殺するために、わざと会社を赤字にする方もいらっしゃいます。

 しかし、それでは本来の成長は果たせませんから、あくまでも好まず赤字である場合に活用する制度であることをお忘れなきよう…(執筆者:谷口 孔陛)

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