従業員のメールやパソコンの監視を行う際に必ず満たすべき2つの要件

 テレワークの導入を踏まえ勤怠管理の強化を実施したい。会社のパソコンで私用メールを送ったり、業務に関係ないウェブサイトにアクセスすることによる生産性の低下を防ぎたい。こんな時は従業員のメールやウェブのアクセス履歴を会社でモニタリングするのも1つの手です。ただし、2つの要件を満たさねば、モニタリングはプライバシーの侵害となる可能性があるため、注意が必要です。

従業員のメールやパソコンの監視を検討するきっかけは?


 全社をあげた残業時間の短縮、ダイバーシティ政策の一環によるテレワーク導入など、時間の面で社員を優遇する政策を各企業が取り入れ始めています。

 とはいえ、このような制度を導入する際は、社員の勤怠管理を強化しなければ、仕事の生産性が低下するおそれがあります。

 また、会社のパソコンでプライベートのメールを送ったり、業務に関係のないウェブサイトにアクセスすることによる生産性の低下を防ぎたい、と考える経営者の方もいらっしゃることでしょう。

 そうとくれば、すぐにでも従業員のメールやウェブのアクセス履歴をモニタリングしたいところですが、近年の個人情報に関する権利意識の強まりもあるため、むやみやたらな実行はリスキーであり、正確なルールを踏まえてこれを実行に移す必要があります。

 そこで本稿は、従業員のメールやウェブアクセスのモニタリングを行う場合に、必ず満たすべき2つの要件をお伝えします。

メールやパソコンのモニタリングは2つの要件を満たさねばリスキー


 従業員のメールやウェブアクセスをモニタリングしたいなら、企業は事前に一定の要件を満たす必要があります。

 一定の要件とは、
  • メールやウェブアクセスの監視に関する規程や就業規則への記載があること
  • 同規定や就業規則が従業員に対して十分に周知されていること
 という2つの要件です。

 モニタリングに関する規定や就業規則が存在しなかったり、従業員にその内容が周知されていないと、プライバシーの侵害とみなされる場合があります。

 要件の詳細については、経済産業省「個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン」や、厚生労働省「雇用管理分野における個人情報保護に関するガイドライン」に記載があるので、お時間がある時にご確認ください。

 参考リンク1:個人情報の保護に関する法律についての経済産業分野を対象とするガイドライン:経済産業省

 参考リンク2:雇用管理分野における個人情報保護に関するガイドライン:厚生労働省q

社内規定や就業規則にモニタリングの規定が無いと…


 なお、規定がないのにモニタリングを実施するケースでは、これがプライバシーの侵害にあたるかどうかを個別に判断されることとなります。

 メールの私的利用とプライバシー侵害については、過去の判例(F社Z事業部事件(東京地判平13.12.3))において、

職務上従業員の電子メールの私的使用を監視するような責任ある立場にない者が監視した場合、あるいは、責任ある立場にある者でも、これを監視する職務上の合理的必要性が全くないのに専ら個人的な好奇心等から監視した場合あるいは社内の管理部署その他の社内の第三者に対して監視の事実を秘匿したまま個人の恣意に基づく手段方法により監視した場合など、監視の目的、手段及びその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益とを比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となると解するのが相当である。
 という解釈で判決がくだされています。

 特に、「社会通念上相当な範囲」であるかどうかは定性的な解釈ができないため、企業側がリスキーな判断を迫られることになります。

 ゆえに、不要なリスクを避ける意味で、
  • メールやウェブアクセスの監視に関する規程や就業規則への記載があること
  • 同規定や就業規則が従業員に対して十分に周知されていること
 の2要件を整備したうえでモニタリングを実施する必要があるのです。

 なお、会社のパソコンを利用してプライベートのメールを送ったり、業務に関係のないウェブサイトにアクセスすることは、職務専念義務に違反した行為です。

 勤怠管理などで従業員のメールやウェブアクセスのモニタリングが必要ならば、まずは規定を作成して、職務専念義務についても周知しましょう。

 これによって従業員も、「労働時間は職務に専念すべき時間だ」と改めて意識するきっかけを作れるからです。(執筆者:渡邉 大)

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