会長や社長が「相談役」や「顧問」に残る大きな理由〜武田薬品の場合

 企業の会長や社長が退任後に、会社をいきなり辞めず、「相談役」「顧問」として残るケースがあります。事業判断に関与しておらず、相談役としてアドバイスを求める機会も少なくなるのに、なぜ企業は彼らに一定の期間、役職を与えるのでしょうか?直近、武田薬品で行われた人事考課を例にあげ、その主な理由をご説明します。

会長や社長が「相談役」や「顧問」に残るのはなぜ?


 企業の会長や社長が退任後に「相談役」「顧問」として、会社に残るケースを皆さんも見たことがあるのではないでしょうか?

 よく知られた事例だと、セブン&アイHDの会長を務めていらっしゃった鈴木敏文氏は、会長を退任された後も「名誉顧問」として、会社に一応の籍を残されました。

 直近でも製薬大手の武田薬品で会長を務めていた長谷川閑史氏(以下、長谷川氏)が退任したものの、相談役に就任することが発表されています。

 なぜ、企業のトップを務めていた人材が退任する際は、いきなり会社の全ての役を降りることが少ないのでしょう?

「相談役」や「顧問」に残す理由の1つは住民税の支払に対する配慮


 武田薬品が長谷川氏の相談役就任について見解を公表したところによると、長谷川氏は既に事業判断に関与しておらず、相談役としてアドバイスを求める機会も「ごくまれ」と説明しています。※

 すでに経営に関与していないのであれば、相談役に就任する必要もありません。

 しかし、過去からの慣習で、役員退任後に1年間限定で相談役に就任するケースは、武田に限らず非常に多いのです。

 その理由は住民税の支払いのためです。

 多額の報酬を受けつつ、住民税を支払うことは問題ありませんが、住民税は前の年の分を支払います。

 したがって、長谷川氏は報酬が無くなった後に、住民税を1年間支払う必要があります。

 もちろん会社は報酬を支払っているので、それを取っておいて住民税を払えばよいのですが、これは過去からの慣習を引き継いだものです。

 これまでも、多くの日本企業は住民税相当分の支払いをするために、顧問や相談役に就任することが多かったのです。

“恩賞的な制度”にも風当たり強く今後は减少へ向かう


 住民税はおよそ報酬の10%です。

 今回、武田薬品が発表した長谷川氏の相談役報酬も従前の12%とのことですから、やはり住民税負担のための顧問契約の可能性が高いのではないかと思います。

 ただし、コーポ−レートガバナンス的な視点で、顧問や相談役の就任に批判的な意見が多い中、武田薬品も苦慮しているようです。

 長年会社に貢献してきた人材に対する“恩賞的な制度”ですが、今後は働き方の変化により、このような措置が見られる機会も少なくなってくることでしょう。

※武田、長谷川氏人事で説明 相談役就任に理解求める
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO17388370W7A600C1DTA000/(執筆者:大原達朗)

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