お祭りやフェスのPRポスターに一般観客が写り込むのは肖像権の侵害か?

 音楽フェスやお祭りのポスターには必ずと言ってよいほど、イベントに参加する一般観客が写り込んでいます。一般観客はあくまでもプライベートを楽しんでいるわけであり、これを商用利用することは肖像権の侵害に当たらないのでしょうか?PR販促物に一般観客が写り込む場合に、肖像権、著作権、個人情報保護で気をつけるべき点についてまとめました。

一般観客の写り込んだ写真はイベントのPRに大きな波及力を与える


 音楽フェスやお祭りなどのポスターを見ると、よく一般観客が写真に写っていますよね。

 たとえば、音楽フェスを例に上げてみれば、キレイな女性が写真に写っていると、「こんな人達が集まっているんだ〜」ということが理解できるため、男性客を集客する上では確実にプラスになります(笑)

 また、日本三大奇祭の1つ、奥州市の黒石寺蘇民祭は、荒々しい参加者の写真を活用したポスターがネットで話題となり、一気にメジャーな祭りとなりました。

 このように、一般観客の写り込んだ写真は、イベントのPRに大きな波及力を与えます。

 ただ、主催者側は、一般観客があくまでプライベートで楽しんでいるところを、商用物のポスターで利用するわけです。

 そこで本稿は、主催者側が自分達のPRにこれら一般観客の写真を活用する場合に、知的財産権の面で気をつけるべき点についてご紹介しようと思います。

ポスターへの一般観客写り込みと肖像権の関係


 写真に観客などの人が写り込む場合に問題となるのは、その人の肖像権です。

 肖像権は、自分の肖像が写真などで撮られたり公表されたりすることを、自分の意思で決めることができる権利です。

 肖像権には2つのパターンがあります。つまり、撮影を許可する場合と拒否する場合です。

撮影を許可する場合


 Aさんが撮影を許可する場合は、Aさんの肖像を写真に撮っても肖像権の侵害にはなりません。Aさんから許可を得ているからです。

 従って、Aさんから許可を得ていれば、Aさんを写真に撮ったり、Aさんが写り込んだ写真を使ったりすることに問題はありません。

撮影を拒否する場合


 一方、Aさんが撮影を拒否する場合は、Aさんの肖像を写真に撮ることで、肖像権の侵害になる可能性があります。

 多くの場合、問題となるのはこちらです。

 観客などが写り込んだ写真については、1人1人に許可を得ることは通常できません。

 写真の中に拒否する人が含まれている場合は、肖像権の侵害になる可能性が出てきます。

写り込みが肖像権の侵害と認定されるのはどんな場合?


 一般観客が撮影を拒否する場合に、肖像権の侵害になるかどうかは、写真の撮り方によって変わってきます。

 以下、少し詳しく見てきましょう。

1)本人が特定できない場合


 写真に撮るといっても、Aさん1人をクローズアップして写す場合もあれば、Aさんが観客の一人として写り込んでしまう場合があります。

 どのラインが問題になるかというと、まずは、本人が特定できるかどうかというラインです。

 写真を見てAさんが特定できなければ、肖像権の侵害にはならないと考えられています。

2)本人が特定できる場合


 逆に、本人が特定できる場合は、肖像権の侵害の可能性が出てきます。

 ですが、この場合でも全てのケースでNGというわけでもありません。

 例えば、観光地で写真を撮った場合に自分をメインに撮影しているものの、たまたま背景にAさんが写り込んでしまった場合です。

 仮にこの写真からAさんが特定できたとしても、撮影の目的は観光地で自撮りしSNSにアップすることであって、メインは自分、Aさんはサブという関係にあること、また観光地で写真に写り込んでしまうことはあり得るので多少は仕方ないよね、という事情から、肖像権の侵害にはならないと考えられています。

ポスターへの一般観客写り込みと著作権の関係


 写り込みには、肖像権だけでなく、著作権も関係してきます。

 ディズニーランドでミッキーマウスが写り込んだ写真を撮った場合、ミッキーマウスには著作権があります。

 このような場合も、基本的には肖像権と同じ考え方になります。

 ディズニーランドが許可した場合は、ミッキーマウスを写真に撮ったり、ミッキーマウスが写り込んだ写真を利用したりすることができます。

 ディズニーランドが拒否した場合は、写真の写り込み方で変わってきます。

 すなわち、写真をメインで撮影する対象物があって、その周りに背景等として写り込んでしまったキャラクターについては、写真に撮っても著作権の侵害にはなりません。

 肖像権同様に「メイン」と「サブ」という関係があればOKということです。

 これに対し、キャラクターをメインで撮影した場合はダメということになります。

一般観客がピースサインしている写真はPRに使うべからず


 写り込みの問題として、肖像権と著作権のお話をしましたが、最近もう一つ気をつけないといけないことがあります。

 それは、カメラの解像度が上がったことから、指紋が判別できる解像度で写真が撮れてしまうことです。

 写真の中にピースサインをした人が写り込んでしまった場合、その写真からその人の指紋が抽出され、指紋認証等で悪用されてしまうことがあります。

 つまり、一般観客が写り込んだ写真をPRで活用する場合は、個人情報の保護に関するリスクを踏まえる必要もあるのです。

 もし、このようなことが起こった場合、写真を撮影した企業と、写真に撮られた人との間でトラブルにつながる可能性がありますので、撮る側も撮られる側も気をつけましょう。

 イベント事は観客と主催者が共同で盛り上げ、作っていくものです。

 ぜひ、PR活動で観客の写真を活用するならば、上記にあげた、肖像権、著作権、個人情報の保護の3点をきちんと踏まえていただければ幸甚です。(執筆者:弁理士 渡部 仁)

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