オフィス「家賃の年払い特例」の適用を検討する前にチェックすべき6つの点

 「家賃の年払い特例」を適用すると、決算月間際に次年度分の家賃を年払いすることで、1年分の家賃支払額を一括で経費に落とせるため、効果の大きな節税対策となります。ただし、この特例も無条件に活用することは出来ず、6つの適用要件を満たさねばなりません。以下、詳細に解説いたします。

「家賃の年払い特例」は効果の高い節税対策


 節税の基本は、「必要とされる支出により、節税すること」です。

 ですから、節税対策を行う上なら、むやみに何でも経費扱いするのではなく、必要不可欠で効果の大きな支出に絞る必要があります。

 そのような節税対策は幾つも存在するわけではありませんが、もし会社のキャッシュに余裕がある、家賃の負担が利益に対して少ない、という状態ならお勧めしたいのが、「家賃の年払い特例」を活用した節税対策です。

 ご存じの方も多いかと思いますが、この家賃の年払い特例は、決算月間際に利益が発生する時に有効な節税対策です。

 その中身は、決算月間際に次年度分の家賃を年払いすることで、1年分の家賃支払額を一括で経費に落とすというものです。

 例えば、3月に次いで決算月が多いのは9月ですが、9月の決算で予想以上に利益が出ていたとします。

 この場合に、9月決算の法人が10月から先1年分の家賃を9月末に支払い、その支払った1年分の家賃を9月経費とすることで、「将来避けられない支出」を活用し、利益を圧縮することが可能になります。

「家賃の年払い特例」の適用を検討する前にチェックすべき6つの点


 ただし、家賃の年払い特例も、無条件に活用することは出来ず、一定の適用要件を満たす必要があります。

 その要件とは、下記にあげる6つのものです。
  • 1)契約に基づいたものであること
  • 2)当期中に支払いが済んでいること
  • 3)支払いから1年以内に役務の提供を受けること
  • 4)特例が毎期継続されていること
  • 5)収入とひも付きの支出でないこと
  • 6、重要性の乏しい費用であること
 以下、6つの適用要件を詳細に見てみることにしましょう。

1)契約に基づいたものであること


 もともと月払い契約であった家賃について、貸主(オーナー)の了承を得ずに1年分の家賃を支払ったとしても、家賃の年払い特例を受けることは出来ません。

 そのため、事前に貸主と交渉し、賃貸借契約の契約内容を月払いから年払いに変更する必要があります。

2)当期中に支払いが済んでいること


 年払いする家賃を未払計上することは認められていません。

 たとえ、契約内容を年払い契約に変更していたとしても、年度末までに1年分の家賃を実際に払っておく必要があります。

3)支払いから1年以内に役務の提供を受けること


 たとえば、9月決算法人が、1年分の家賃(10月~9月分)を8月に支払ったとしたら、支払った家賃を全額経費計上することが出来ません。

 このケースでは、支払った月(8月)から1年を超える期間分の家賃を支払うことになるため、家賃の年払い特例には残念ながら該当しません。

 たった1月のズレですが、ここを見逃して特例が適用されない企業が結構存在します。もったいないところです。

4)特例が毎期継続されていること


 家賃の年払い特例を適用するか否かでネックになるのが、この要件です。

 一度、家賃の支払い方法を年払い契約に変更すると、翌期以降も同じ支払方法を継続する必要があります。

 「前期は黒字だったけれど、今期は赤字で資金繰りが厳しくなるから、支払方法を月払いに戻す。」といった処理は認められないのです。

5)収入とひも付きの支出でないこと


 賃借している物件(オフィス)を転貸し、賃貸料収入を得ている場合は適用を受けることができません。

 いわゆる、又貸し物件、シェアオフィスを運営している場合も、これに該当します。

 この場合の家賃は、収入(賃貸料)の計上に直接対応する費用のため、家賃の年払い特例としては認められません。

 従業員等から賃貸料の収受がある社宅などの家賃についても、年払いをしたからと言って、家賃の年払い特例を活用することは出来ません。

6)重要性の乏しい費用であること


 効果の大きい「家賃の年払い特例」ではありますが、ここでちゃぶ台返しとなる要件を…

 この規定は、あくまで重要性が低い費用について、事務負担の軽減等を目的としての儲けられたものです。

 年払いを実施する企業の事業内容と照合し、売上原価や重要な営業費用等に該当すると考えられる費用については、家賃の年払い特例が適用できません。

 店舗運営をしている場合など、家賃と売上原価が密接な関係を持つ企業は、特例の適用を否認される可能性があります。

安易に特例の適用を検討すると痛い目に合う


 ここまで記述したように、家賃の年払い特例を受けるためには、6つの要件を全てクリアしなければなりません。

 「今期は利益出そうだから〜」「ギリギリだけど大丈夫でしょ〜」という形で、安易に特例の適用を考えるべきではありません。

 ただし、一旦特例の適用を受けることになれば、地代家賃はもちろん、保険料や賃借料、会費などについても、要件を満たせば家賃の年払い特例を受けることが可能です。

 以上を踏まえ、家賃の年払い特例が御社に合った節税対策であれば、活用するのも一つの手と言えるでしょう。(執筆者:北村 光宏)

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