インターンシップで学生の怪我に労災が適用される場合・適用されない場合

 2017年卒学生のうち、インターンシップ参加者は実に43.7%に達しています。これに伴い、インターンシップの受け入れ側となる企業は、学生がインターンシップに参加する際に生じるリスク対策を取らねばなりません。代表的なリスクの1つに会社の行き帰りで生じる事故による怪我があります。もし学生が怪我をした場合、労災の適用をしなければならないのはどんな時なのでしょうか?

インターンシップ参加の学生が会社に来る途中で怪我


 リクルートキャリアの発表によると、2017年卒学生のうち、インターンシップ参加者は実に43.7%に達しています。※

 企業の本音としても、採用活動の一環としてインターンシップ制度を活用し、ミスマッチングを減らし、優秀な人材を獲得したいと考えていることが多いかと思います。

 インターンシップを導入している企業は、最初から採用目的でこれを実施している企業もありますが、その多くは「職場体験」「実習」というスタンスで、学生に来てもらうことが多いはずです。

 そのため、
 
インターンに係る一切の経費(旅費・住居費・食費・交通費・その他経費)の支給はございませんのでご了承ください。

賃金等の報酬はありません。
 だいたい、このような条件で募集要項を出しているところが多いのではないでしょうか?

 さて、貴方の会社へもインターンシップで学生が会社へ来るようになりましたが、ある日、この学生が自転車で会社の行き帰りで、車と接触して交通事故に遭い、怪我をしてしまったとします。

 雇用形態を締結している従業員なら、通勤災害として労災保険の適用を受けることが可能ですが、インターンシップの学生も同じように労災を適用すべきなのでしょうか?

インターンシップの学生に労災保険が適用される場合・されない場合


 インターンシップの学生に労災保険を適用すべきかは、この学生が「労働者」と認められるか否かで判断が変わります。

 この点、労働基準法第9条は、労働者の定義を以下のように定めています。

職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
 従って、賃金の支払を行わないインターンシップにおいて、学生は原則的に労働者と認められないことになります。

 ただし、前通産省が平成9年9月18日に公表した通達によると、労働基準法第9条について、

「使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど、使用従属関係が認められない場合には、労働基準法第9条に規定される労働者に該当しないものである」
 という文言が提示されています。※2

 つまり、インターンシップの学生は、無条件に「労働者でない」と判断されるわけではなく、「使用者から業務に係る指揮命令を受けている」「使用従属関係がある」と認められる場合は、たとえ給料を払っていなくとも、労働者と判断される可能性があるのです。

 これまでの判例などを見ていくと、
  • 勤務時間・勤務場所が拘束される
  • 会社の服務規律が適用される
  • 仕事の依頼を断る自由がない
  • 報酬が事実上の賃金に当る場合
 このようなケースでは、たとえインターンシップの学生であっても、指揮命令系統の下にいる、従属関係がある、と判断される可能性が高くなります。

 インターンシップの学生が労働者とみなされた場合、会社側は当該学生について労災保険を支払い、賃金を支払う必要が生じます。

 インターンシップの受入れに関しては、このようなリスクを踏まえ、アルバイトとしての実習と位置付けて、雇用契約を結んでいる企業もあります。

実習時間内の怪我は企業にも責任が生じるので対策が必要


 あくまでも、インターンシップの学生が指揮命令系統の下におらず、従属関係もないと判断されれば、会社の行き帰りに起きる事故は通勤災害とはみなされません。

 ただ、これでは学生が可哀想です。

 このような場合に学生が保護されるため、企業はインターンシップで学生を受け入れる際に、前もって学生へインターンシップ保険の加入を義務付け、学生・学校・企業の3者間でこれを確認するべきでしょう。

 大抵の大学ではインターンシップを受ける学生のために、インターンシップ保険を用意してますので、これに学生が加入するよう最初に案内するのです。

 それでは、会社の行き帰りではなく、実習時間内に何らかの事故が起きて、学生が怪我をしてしまった場合はどうでしょうか?

 このケースは実習時間内に会社側の「安全配慮義務違反」があったとして、損害賠償請求の対象となってしまう可能性があります。

 このような場合に備えて、インターンシップ制度を導入する企業は、
  • 傷害保険に加入する
  • 実習の内容によってはアルバイト契約を行い、インターンシップ対象者が労災適用できるようにする
 といった対策を取っておいたほうが賢明です。

 企業にとっても、学生にとっても、インターンシップ制度はメリットのある制度ですが、上記のような「まさか」に対する事前の備えを行ってこそ、相互が安心して活用できるものとなります。

※就職白書2017 -インターンシップ編- リクルート
https://www.recruitcareer.co.jp/news/20170215_02.pdf
※2インターンシップ活用ガイド - 経済産業省
http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/intern/guidebook-katsuyo.pdf(執筆者:渡邉 大)

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