消費行動にワクワク・ドキドキを付加する「未知マーケティング」2つの事例

 消費行動を喚起する手段として、「未知マーケティング」の活用に注目が集まっています。未知マーケティングとは、消費者に「未知との遭遇」という体験を提供し、ワクワク・ドキドキ感を与えるマーケティング施策のことです。本稿では、未知マーケティングの先行事例として、日本航空の「どこかにマイル」、TSUTAYAの「NOTジャケ借」をご紹介します。

消費行動の新しいトレンド「未知マーケティング」


 こんにちは。ジェネシスコミュニケーションの松尾です。

 今回は、消費行動の新しいトレンド、「未知マーケティング」について簡単にご紹介したいと思います。

 「未知マーケティング」とは日経MJが名付けたキーワードですが、まずは具体例を挙げましょう。

 日本航空を利用されている方の多くはご存知かもしれませんが、「どこかにマイル」という特典航空券が2016年12月から開始されています。

節約社長
日本航空:どこかにマイル

 これは、通常の半分程度、6000マイルで国内各地への往復航空券と交換できるサービスです。その特徴は、目的地は本人ではなくシステムが決めるという点。

 特設Webサイトで往復の日程を入力すると、4つの目的地がランダムに提示されるという仕組みです。

どこに行くかわからないワクワク感を求め3ヶ月で1.3万人が予約


 普通、マイレージを貯めている人は、「マイルが貯まったのでどこに行こうかな」と考えた後に、色々と調べて自らプランを決めますが、「どこかにマイル」では、ルーレットを回すように、適当な行先が表示されます。

 そうすると、自分では思いもしなかった行き先に目がとまり、その場所について調べてみると、いい温泉があるとか、有名な世界遺産が近いといった発見があり、自分で考えたら行かなかったあろう、新しい場所へ旅行する機会になるというわけです。

 「どこかにマイル」は、利用者の過去の行動履歴や好み等は考慮せず、ただランダムに検索結果を表示するだけですから、きわめてシンプルな仕組みでしょう。

 それでも、どこが出てくるかな、というワクワク感を味わうことができる。まさに「未知との遭遇」が与えるエモーショナルな価値を有しているのではないかと思います。これが「未知マーケティング」です。

 日経MJの取材によれば、同サービス開始後、3カ月で1万3千人が予約したとのことで、なかなかの人気を博していると言えるでしょう。

ジャケットを敢えて見せずDVD等を借りてもらうTSUTAYAの「NOTジャケ借」


 さて、もうひとつ、「未知マーケティング」の事例をご紹介しましょう。

 TSUTAYAの一部店舗では、「NOTジャケ借」というコーナーが新設されています。

節約社長
TSUTAYA:NOTジャケ借

 NOTジャケ借のコーナーに行くと、映画などの映像作品DVDのジャケットがパステルカラーの紙で隠されており、代わりに「全員フルボッコの最強パパ」「まぶしすぎる青春を過ごしてない人へ」「人間の腐った部分を詰め込んだらこうなる」といった、内容のヒントを匂わせるキャッチコピーが読めるだけ。

 これも、通常、ジャケットの作品名やあらすじを見てからレンタルするかどうかを決めるところを「NOTジャケ借」コーナーに並んでいるDVDは、TSUTAYAの店長が考えたキャッチコピーを見て、「なんだろう、気になるなあ、これにしてみよう!」と決める感じです。

 「どこかにマイル」と同様、NOTジャケ借も、選ぶときの「ワクワク感」というエモーショナルな付加価値を消費者に与えることに成功していますね。

 同サービスは、2016年10月、TSUTAYA馬事公苑店だけでスタートしたのですが、現在は全国1500店舗に拡大したとのこと。

「未知マーケティング」は拡大が予想される偶発的消費を促す施策


 先日公開した記事、『2030年、私達の消費行動はどう変わるのか?予測される3つの消費タイプ』では、未来の消費タイプとして以下の3つがあることをご紹介しました。

 すなわち、
  • 1:自律的消費⇒自らのこだわりを追求し、消費を自らコントロールする消費行動
  • 2:他律的消費⇒自分の求めている最適な商品やサービスについて、他者がIT等を通じて発見し、提案してほしいとする消費行動
  • 3:偶発的消費⇒「ワクワク・ドキドキを味わいたい」という欲求を追求し、偶然面白いと感じるものを発見することを望む消費行動
 というものでしたね。

 今回の2つの事例はもちろん、「偶発的消費」に対応したマーケティング施策ですね。

 単にモノやサービスを購入する、という消費行動に「ワクワク」「ドキドキ」などのエモーショナルな価値を付加し、優れた顧客体験を生み出す仕掛けは今後もどんどん増えていくことでしょう。(執筆者:松尾 順)

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