雪国まいたけの株を神明が取得!なぜ米問屋がきのこ製造業に参入するの?

 日本初の舞茸人工栽培に成功して一気にきのこマーケットの大手となった雪国まいたけ。同社は不正会計により一旦上場廃止となり、再生ファンドとして知られるベインキャピタルの傘下につきました。ところが7月21日にベインキャピタルはお米問屋の神明に49%の株を譲渡したことを発表します。なぜ米問屋がきのこ業に参入するのでしょうか?

雪国まいたけの株式の一部をベインキャピタルが神明に売却


 日本で初めて舞茸(まいたけ)の人工栽培に成功し、かつては、郷ひろみのテレビCMでも一世を風靡した雪国まいたけですが、2013年に巨額の不正会計が発覚したことで、状況は一変しました。

 創業者一族と経営陣による争いは、経営陣の側についたベインキャピタルが、2015年にTOBをかけることで経営陣が勝利し、同社は上場廃止となりました。

 創業者一族が排除されたこともあり、大きくニュースで報じられたことを覚えている方も多いことでしょう。

 ベインキャピタルといえば、国内外で様々な企業の再生を手がけてきたことで有名な投資ファンドです。

 日本国内だと、同社が手がけてきた、すかいらーく、ドミノピザの建て直しは有名なところ。

 あれから2年経った7月21日(金)、同社の100%株主であるベインキャピタルは、株式の49%を米卸の大手である神明(しんめい)に譲渡することを発表しました。

 再生ファンドと化しているベインキャピタルからすれば、エクジット(出口)なのでしょうが、神明に対して今回譲渡を行うのは49%で、残りの51%はベインキャピタルの株式保有継続となります。

神明ってどんな会社?私達の生活に必要な米を卸す最大手企業


 ところで読者の皆様は、神明という会社をご存知ですか?

 あまりご存じない方も多いかもしれませんが、神明は売上1,600億円を誇る、国内最大の米卸を手がける会社です。

 コンビニのおにぎりで使うお米、ファミリーレストランで食べるライス、私達はあらゆるところで神明が流通させたお米にお世話になっています。

 また、郊外でよくみかける、元気寿司、魚べい(回転しない寿司)も、神明の子会社が手がける寿司屋ブランドです。

 しかし、なぜ米屋がきのこ屋の株式を大量保有するのか?皆さんの中には疑問を抱く方もいることでしょう。

 確かに、青果とお米では流通経路から、相場読み、商習慣に至るまで、何もかもが違います。

お米問屋がきのこ屋の株を49%も買うワケは?


 神明が青果業へ進出する理由は、青果業界に大きな穴があいていることに起因します。

 中間流通業者に、大手企業がほとんど存在していないのです。

 残っている事業者も、資本力が弱く、粗利益率も低い、更には他の業界と比較した時に、極めてアナログの戦いを繰り広げています。

 市場の縮小、プレイヤーの减少により、青果業界ではこれから大きな淘汰が起こることが予想されています。

 ただし、青果市場は縮小すれど、人が食べることを止めない限り、消滅することはありません。

 資本力を持つ外部の第三者からすると、プレイヤーが弱った縮小市場へ一気に打って出て、その市場において影響力のあるプレイヤーとなれば、価格統制権を手に入れることが可能となる、つまり、新規参入に旨味が出るわけです。

 特に、食品流通というくくりで見れば、神明は既存の売り先を青果にリンクさせることが容易であり、全くの異業種から青果業へ参入するよりシナジーを発揮できます。

 安直かつ極端ですが、お米を卸しているところに、「まいたけご飯」のような提案をすることも可能なわけです。

 更に、今回の発表に先んじて神明は、青果業界で2つの会社を買収しています。

 3月に青果卸大手の東果大阪(取扱高449億円:平成28年)、4月には農産物加工・販売の「ナチュラルアート」という会社を連結子会社としたのです。

 ナチュラルアートは単体売上のみで見れば2億円強ですが、子会社として青果卸の大同印岡山大同青果(売上高79.4億:平成28年)を保有します。

 2社に共通しているのは、業態が「大卸」というところです。

 更に、今回買収した雪国まいたけが生産するのは、きのこです。

 きのこは年間供給が可能であり、野菜マーケットにおけるシェアもトマトに次いで高い作物です。

 自分達の既存の売先を保ちながら、安定した新たな売先を確保し、更にマーケットサイズの大きい、きのこの流通に参入する、という形で新たな市場を手に入れる目論見が神明にはあるのでしょう。

ベインキャピタルと神明が共有する再上場への絵図


 一方で、ベインキャピタルにとってみると、神明に株を49%売却した時点で投資資金の一部が回収できるようになります。

 更に、雪国まいたけが再上場すれば、その時点で自社の保有する株を売り出し、キャピタルゲインを得ることも可能です。

 そうすれば、神明は現在は49%の株保有に留まりますが、ベインキャピタルが株を売却した後は、筆頭株主として雪国まいたけを支配する青写真が描けるため、両方にとって都合の良い話となります。
 
 ベインキャピタルと神明は、しばらく共同経営することにより、引継ぎを行うことでしょう。

 もしも、きのこの販売が好調を維持するのであれば、この間に神明がベインキャピタルから更なる株の買い増しを行うのも、十分に考えられる話です。

 ただし、青果相場の不調などにより、雪国まいたけの業績が思うように伸びない場合、今回の株取得が神明にとって頭を悩ますタネとなる可能性も否めません。(執筆者:大原達朗)

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