2017-05-17 09:11:06

IEA月報は在庫減少に自信を示すも、5年平均回帰には追加施策を要求

<IEAは在庫の減少見通しを提示するも>
国際エネルギー機関(IEA)は5月16日、最新の「Oil Market Report(OMR)」を公表した。マーケットでは、国際原油需給の均衡化、更には在庫取り崩しが進むのか悲観と楽観とが交錯した不安定な地合が続いているが、IEAの需給動向分析は投資家マインドに与える影響も大きいため、どのような報告を行っているのかを確認しておきたい。




まずは在庫環境であるが、経済協力開発機構(OECD)加盟国の石油在庫は、3月時点で前月から3,290万バレル減少し、30億2,500万バレルになったと報告されている。1月には8,000万バレル近い大量の在庫積み増しが行われていたが、2月と3月は連続して在庫の取り崩しが報告されており、国際需給バランスは着実にタイト化方向にシフトしていることが窺えるデータになる。




1~3月期通期だと2,410万バレル増と、製油所稼働率が低迷した1月に在庫が急増したショックを吸収しきれなかった。しかし、日量だと30万バレルの在庫積み増しペースであり、IEAは新興国なども含めた世界全体では日量10万バレルの在庫積み増しに留まり、1~3月期の石油市場は「ほぼ均衡化した(almost balanced)」と総括している。OECD在庫(主に米国在庫)の積み上がりを、他地域の海上在庫の減少によって相殺したことで、世界全体としてはほぼ需給均衡状態を達成している。マーケットではシェールオイル増産によって需給均衡状態の実現に懐疑的な見方が根強いが、協調減産がスタートした効果が出始める1~3月期時点で既に「ほぼ均衡した」状態を実現したことは高く評価できよう。




そして4~6月期に関しては、石油輸出国機構(OPEC)の供給水準が変わらないことを条件に、日量70万バレルのペースで在庫減少が進むとの見通しが示されている。1カ月で2,100万バレル、4~6月期で6,300万バレルの在庫減少が想定されている。年後半については詳細な見通しまでは示されなかったが、「在庫減少は更に大きくなるだろう(stock draws are likely to be even greater)」として、本格的な在庫取り崩しが進むとの見通しを再確認している。




他の条件が「何も変わらない(nothing changes)」とされているのがポイントであり、当然にシェールオイル生産見通しの変化などがあれば、この見通しは変わってくる。ただ、現在の需給見通しを前提にすれば、協調減産が現行レベルで継続できれば、4~6月期に在庫減少傾向は一段と強まり、7~12月期の需要期にはそのペースが更に加速することになり、マーケットの需給均衡化、在庫取り崩しに失敗するとの懸念は「杞憂」と評価されることになる。




サウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相などが目安とする「在庫の5年平均回帰」については、「2017年末までに実現することはないだろう」として、実現可能性は低いとの見方を示している。仮に5年平均を目指すために更に在庫取り崩しペースを加速させるのであれば、「やるべきことは多く残されている(much work remains to be done)」と、追加施策の必要性も示唆している。その意味では、マーケットが減産幅積み増しの議論がみられないことに失望感を示していることにも一定の正当性が認められるが、このまま想定外の需給変動がみられなければ、4~12月期に2億バレル程度の在庫減少を想定することは特に困難ではなく、目標達成とまでは言えなくても、正常化には一歩近づくことになる。




このため、強気評価が基本になる報告内容と言えるが、マーケットでは在庫環境正常化が進むとの見方をコンセンサスにするレベルには到達していない。IEAも「状況が変わる可能性がある」として、特に米国の供給環境の変化に注意を喚起している。実際に、今月報では年末時点の米シェールオイル生産量は16年末を日量79万バレル上回るとしているが、これは前月から10万バレルの上方修正になる。非OPEC全体でも、前月の49万バレルの増産見通しから60万バレルの増産見通しに修正が行われており、このまま10万や20万バレルといった規模で生産見通しの上方修正が続くと、在庫減少ペースは鈍化し、そもそもが在庫取り崩しが進まないといったシナリオも浮上してくることになる。




このため、IEAの大規模な在庫取り崩し見通しを以ってしても、原油価格に対する刺激効果は限定されることになる。50ドルで「状況が変わる可能性」があるか否か、52ドルではどうなるのかと、需給見通しの変化を警戒しながらの緩やかな原油高が基本になる。2月、3月とOECD在庫は減少トレンドへの回帰を実現しているが、その後も本当に原油在庫の減少が実現するのか、5年平均への回帰が見通せる状況にあるのか、在庫データを確認しつつの緩やかな原油高が想定されることになる。現在の需給見通しからは、50ドル台は決して投機色の強い高値とは考えておらず、原油相場のコアレンジは切り上がる方向でみている。






<サウジ=ロシア案への支持広がる>
一方、サウジアラビアとロシアが合意した来年3月までの協調減産延長案だが、各国から支持表明の声が相次いでいる。イラン、イラク、クウェート、ベネズエラ、ジョージアなどが、減産延長案を支持する方針を示している。




唯一、カザフスタンが減産延長を支持しつつも、自国の生産量上限見直しを要求しているのが目立つ程度である。ただ、カザフスタンの減産負担は日量2万バレルに過ぎず、影響は限定されよう。IEAもカザフスタンに関しては生産量の上振れ予想を既に織り込んでいる。5月25日のOPEC総会で非加盟国も含めた最終合意を目指す流れになるが、現状では、協調減産を現行の体制のまま9カ月延長する案を軸に調整が進む見通しである。若干の微調整が行われても、協調減産の効果に対する信認が失われるような動きはないだろう。




この結果、少なくともOPECと協調減産に参加したOPEC非加盟国の産油水準が大きく変動するリスクは限定される。世界の石油需要が着実な拡大傾向を維持する中、仮に世界の産油水準が一定であれば、供給不足幅は拡大する一方となり、急ピッチに在庫取り崩しが進むことになる。




焦点は協調減産に参加していない米国、ブラジル、メキシコ、カナダなどの産油動向になる。これら非減産国の増産ペースが加速すれば、協調減産で削減された供給量が、シェールオイルなどの増産による追加供給によって相殺されるだけの結果になりかねないためだ。




米ゴールドマン・サックス・グループは、今回の協調減産延長合意を受けて短期スパンで原油相場のリバウンドが加速する可能性を指摘しつつも、今後の原油価格見通しを修正する必要性はないとして、45~55ドルの長期レンジ見通しを維持した。原油相場が50ドル割れから急落する必要性は乏しい一方で、同社がシェールオイル増産加速を想定している50~55ドルのレンジブレイクも難しいとのロジックである。




Reutersのアナリスト調査によると、WTI原油価格予想の中央値は4~6月期53.45ドル、7~9月期55.69ドル、10~12月期57.11ドルと、概ね3か月に1.8ドル程度のペースでコアレンジが切り上がる方向性が想定されている。年後半は需要期になり、協調減産が延長される以上、この程度の原油高であればシェールオイルなどの増産分を考慮に入れても、十分に在庫環境の正常化は進むとの計算である。当レポートでも年後半の50ドル台後半は特に投機的な高値とは考えておらず、リビアやナイジェリアなどで突発的な供給障害が発生すれば、60ドル台も決して達成不可能な価格水準ではないと考えている。




ただ、マーケットがシェールオイル増産の脅威に極度の警戒感を維持している以上、各種在庫統計で過剰在庫の解消が進んでいることを確認する作業が求められることになり、45~50ドルの価格水準では物色妙味があるものの、50ドル台中盤に近づくと利食い売りや戻り売り圧力が強まりやすい地合が続く見通しである。


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【発行者情報】
マーケットエッジ株式会社
代表取締役 小菅 努

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