格安税理士事務所を使って起きた2つの悲劇〜いい加減な決算書の末路は?

 「決算書なんてどこの税理士事務所に作ってもらっても同じでしょ?!」よくこんな意見を聴きますが、実際のところは税理士による決算書への手の掛け方次第で、銀行との融資交渉や税務調査は大きな影響を受けます。中には取り返しのつかない事例も…きちんとした決算書を作ることがなぜ重要なのか、財務のプロフェッショナルが説明してくださいます。

決算書なんて誰が作っても同じ?滅相もないです!


 時々「決算書なんて誰が作っても同じでしょ」と言われることがあるのですが、税理士としてのポジショントーク抜きでぶっちゃけます。

 決算書は作り手の腕次第で質が左右され、しかも会社の経営、特に資金調達に大きな影響を与えるものです。

 特に、格安の税理士事務所さんで見てもらっている会社さんですと、貸借対照表(B/S。ビーエス)がめちゃくちゃになってしまっている場合があります。

 どう違うのか、それによってどんなことが起こるのかを、今日は皆さんにぜひ知っていただけると嬉しいです。

決算書に瑕疵がよくあるパターン〜社長からの借入金


 たとえば、中小企業だとよくあるケースなのですが、会社にお金が無い場合、一時的に社長さんが会社に自分の手金を入れることがあります。

 社長の視点から見ると、自分が経営する、いわば一心同体の会社にお金を貸しているだけ、あるいは一時的にお金を立て替えているだけ、という状況に感じるかもしれません。

 ところが、会社側から見ると、このお金は「社長から借りているお金」になりますので、これは「借入金」となります。

 ここまでは大体誰がやっても同じ処理になります。

 しかし、借入金の中にも「短期借入金」と「長期借入金」があります。

 簡単に言うと、借入金の場合は「1年以内に返済されるかどうか」でこの短期か長期かを分けることになっています。

 社長からの借入の場合、実際のところ「お金があるとき返す」ということが多いでしょうが、それはいつになるかわかりません。

 従って、私は「長期借入金」(固定負債)として扱い、更に「役員借入金」など別の名前の勘定科目を作って管理しておくことをお勧めしています。

 ところで、決算書を見ていただくとご理解いただけるのですが、銀行などが会社の決算書を評価する場合、評価方法の一つとして、貸借対照表の「流動資産」と「流動負債」と書いてある数字を比較します。

 この流動資産がたとえば100、流動負債がたとえば200、と図のような会社さんがあったとします。

節約社長

 流動資産は「現金預金や、1年以内に現金になったり費用になったりするもの」です。

 流動負債は「1年以内にお金を返したり払ったり収益になったりするもの」です。

 簡単に考えるために
  • 流動資産:1年以内にお金になるもの
  • 流動負債:1年以内に払わなくちゃいけないもの
 だと考えていくことにしましょう。

 そう考えて図を見ると、100<200で、明らかに「1年以内に払わなくちゃいけないもの」のほうが大きいですよね?

 社長からの借入を「短期借入金」に含めてしまうと、見た目上「流動負債」が膨らみますので、銀行など外部の人がパッとこの貸借対照表だけ見たら「この会社大丈夫なの?ちゃんと払っていけるの?」と思ってしまうわけです。

 もちろん実際にはほかの書類も合わせて見ますので、わかってくれる方にはわかってもらえますが、意図的に、よりわかりやすい決算書にしておいたほうが絶対に得です。

 社長からの借入金を「短期借入金」で処理してしまっている会社さんは多いのですが、これだけで銀行からの評価が変わることがあります。

 一度見直してみてください。

 ここまでは、よくあるパターンで、まだ修正が効くものですが、ここからは格安の税理士事務所を利用して決算書を作ったがゆえに、とんでも悲劇が起きた例をご紹介しますね。

格安の税理士事務所を使ったがゆえに起きた2つの悲劇


格安の税理士事務所の悲劇1)借入ができない


 社長さんからの借入金を「短期借入金」と表示してある会社さんは多いので、先程も書いたように、まだ“かわいい”ほうです。

 私が一度見た会社さんの決算書で、これはひどいと思った例として、「立替金」や「仮払金」が異常にふくらんでいて、社長にも誰にもその内容がわからない、という状況を見たことがあります。

 事情を聞いてみると、
  • 格安の会計事務所さんに変えてから2年ぐらいやってもらった
  • 「安いしこれはいい」と思っていたが、借入のために銀行に決算書を持っていたところ「この立替金と仮払金は何?」と聞かれた
  • 「会計事務所に任せているから」と一旦は答えたものの、会計事務所に聞いても「うちは社長が出した資料のとおりに処理しただけですので」と要領を得ない返事しか返ってこない
 という経緯が浮かび上がりました。

 私が中身をざっと拝見したところ、どうやらよくわからない出金を全て、立替金や仮払金として処理していたようなのです。

 立替金や仮払金はあくまでも一時的に置いておく勘定科目なのに、多額に計上されていて、しかもその内容がわからないという状態は「うちは何にお金を使っているのか把握できていません」と主張するようなものです。

 結局、その会社さんは借入を受けることができず、うちにも相談に来られただけなので、その後どうされたのかはわからないのですが、こんな落とし穴があるのかと衝撃を受けました。

格安の税理士事務所の悲劇2)納税が多くなる


 これは聞いた話なのですが、「よくわからない出金」を逆に、全て費用として落としてしまった状態もあったようです。

 このケースでは、その後税務調査に入られ、1,000万円近い税金をとられてしまったとのこと。(´;ω;`)

 もちろん、格安であってもきっちりした仕事をしてくださる税理士事務所さんはあると思います。

 1,000万円も追徴課税を取られるなんて、考えただけでもゾッとしますよね。

 キャッシュの弱い会社だと、致命傷に成りかねない事態です。

安かろう良かろうは無い。社長自ら賢明な税理士選びを。


 なぜこのような事態が起こると皆さんは思われますか?

 実は、ただ料金の安い税理士事務所に顧問を頼むと、経験の浅い人を担当としてつけていたり、場合によってはパートさんに入力させて、そのまま申告書をつくるようなケースが多くなります。

 これだと当然、サービスの質が落ちるのは仕方がないところですよね。

 この状況が、会社さんのためになっているかというと、私個人の意見としては、はなはだ疑問です。

 税理士はサービス業です。

 提供する側は必死でサービスを磨き続け、それをお客さまにわかりやすい形で提供し続けなければなりません。

 だからこそ、その磨いたサービスに対して「とにかく安くやってくれ」と値段だけを見て言われると、「ここは料金が安いから最低限申告だけしていればいいだろう」という気持ちが働きやすいのも、また事実だと思います。

 会社を守るのは、ほかの誰でもなく社長さまご自身です。

 安く安くを求めて、結果として借入が受けられなかったり、余計な税金を納めることになったりしたら、会社として大きな損失ですし、ケースによっては会社の生き死にに関わります。

 安さを求めるのは、「安くすること」自体が目的なのではなく、「会社に少しでもお金を残すこと」が目的なのではないでしょうか?

 そうであれば、自分達のことを本当に考えて、良い決算書を作ってくれる税理士を選ぶことは、とても重要な事です。

 たかが決算書、されど決算書。小さな会社にとってこそ、決算書の持つ意味合いはとても重要なものではないでしょうか。

 特に経営者の方は長期的な視点を持つことが求められますので、目的を見誤らず、しっかり会社を守っていってほしく思います。(執筆者:谷口 孔陛)

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