睡眠不足は抑うつとマイナス思考の元凶〜科学が明らかにした睡眠不足の実態

 あぁ、空はこんなに青いのに、風はこんなに柔らかいのに、太陽はとっても明るいのに、どうしてこんなに眠いの?激務が続き睡眠不足となると、仕事が思ったように進まない、眠気がさっぱり取れなくて気分も晴れないという状態に陥りますよね。これは、一種の抑うつ状態であり、仕事の生産性を著しく落とす元凶です。専門機関が実験により明らかにした、そのメカニズムをご紹介します。

睡眠不足で抑うつや不安になりやすいのは人間の身体が訴える正常な主張


 激務が続き睡眠不足となり、仕事が思ったように進まない、眠気がさっぱり取れなくて気分も晴れない、という状態を経験したことはありませんか?

 ひどい時は気が滅入って仕事の書類を見たくない、なんていう灰色の精神状態を経験した方もいらっしゃることと思います。

 実はこの状態はとても正常なもので、科学的にも「なぜそうなるのか?」メカニズムが解明されていますす。

 「忙しいから睡眠不足で働くのは仕方がない」「気合で乗り切るしかないでしょ」

 経営者がそうだと、社内全体も当然にそんなムードとなってしまいます。

 でも、このような慢性的睡眠不足が継続すると、抑うつ状態や不安を引き起こしやすくなり、最終的に生産性が落ちることが、研究結果でわかっているのです。

睡眠不足が抑うつや不安を生じさせるワケは?


 2013年2月、国立精神・神経医療研究センターは、睡眠不足が続くと、なぜ抑うつや不安が生じやすくなるのか、そのメカニズムを解明した、と発表しました。

 以下、その詳細をご紹介しましょう。

睡眠不足時のメンタルはストレスに弱い


 国立精神・神経医療研究センターは14名の健康な成人男性に、それぞれ5日間十分な睡眠と4時間半程度の睡眠をとらせ、メンタルヘルスにどのような影響が出るか実験を行いました。※

 十分な睡眠をとっている期間と睡眠不足の期間中、幸せ・ニュートラル・恐怖の感情を表した写真を見せ、脳の活動を調べたのです。

 結果、睡眠不足時に恐怖を表した表情の写真を見ると、左扁桃体という記憶や情動の制御を司る部分が活発になりました。

 一方で、幸せな表情をしている写真を見ても、扁桃体が活発になることはありませんでした。

 この実験から、睡眠不足の人間は「ネガティブな刺激」に反応しやすくなるということが判明しました。

なぜ睡眠不足でメンタルヘルスに影響が出るのか?


 睡眠不足時に、扁桃体が過剰反応を起こすメカニズムも明らかになっています。

 内側前頭前野(情動、認知、記憶を司る)は、普通の状態では扁桃体が活発になりすぎないよう働きかける部分で、感情が高ぶってもそれを抑える役目をしています。

 しかし、睡眠不足になると内側前頭前野と扁桃体のつながりが弱まってしまうのだそうです。

 内側前頭前野と扁桃体のつながりが弱まれば弱まるほど、扁桃体の活動が増大することになり、睡眠不足が続けばそれだけ少しのストレスで抑うつや不安が生まれやすくなるのです。

 なお、以前の研究でうつ病や社会不安障害、統合失調症などの患者は、これら脳の機能が弱まっているという結果もあるそうです。

 人間はわずか5日であっても睡眠不足により、うつ病と同じような状態になってしまうということなのですね。

「寝る間も惜しんで仕事」は科学的に非合理


 このように、国立精神・神経医療研究センターは、短期間の睡眠不足でも抑うつなどのリスクが増えるとはっきり言及しています。

 論文の締めくくりでは、「寝る間も惜しんで仕事をする」「不眠不休で」「4当5落」という、日本人の美徳が真に効率的で持続可能なのか考え直すべき時期にきていると、現代の労働概念に疑問符を投げかけています。

 経営者、従業員共に、必要とする睡眠時間には大きな個人差がありますが、組織全体で最適なパフォーマンスを発揮するうえでは、個々の人間が健全な精神状態で働く必要があります。

 これを妨げる大きな要因の1つに、睡眠不足による抑うつや不安感があることを認識すれば、長時間労働を如何に削るか、経営者は真剣に考える必要があると理解できるのではないでしょうか。


http://www.ncnp.go.jp/press/press_release130214.html(執筆者:株式会社iCARE)

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