会社で購入した美術品を減価償却資産とするか否かはどう判断する?

 経営者が美術に造詣があったり、資産運用の1手段として活用する目的で、美術品を会社で購入することがあります。所蔵する美術品に価値がある場合、単純に固定資産と同じ減価償却を行ってよいのか、判断が難しいところ。そこで本稿は、このような価値ある美術品を減価償却資産とするか否かの判断について考えてみたいと思います。

前沢友作氏が123億円でバスキアの絵を落札


 若者に人気のファッションECサイトを運営するスタートトゥデイの前沢友作社長(以下、前沢氏)が、アメリカの人気画家であるジャン=ミシェル・バスキアの絵を123億円で落札したことが話題となっています。

 今回、前沢氏は個人名義でバスキアの絵を落札しましたが、所蔵するのは前沢氏が会長を務める公益財団法人・現代芸術振興財団であることから、実質的に落札額はこの財団法人経由で出費されることになると思われます。

 さて、前沢氏と同じように、経営者が美術に造詣があったり、資産運用の1手段として活用する目的で、美術品を会社で購入することがあります。

 所蔵することになった美術品に価値がある場合、所有権こそ企業にあれど、所蔵すること自体に社会的な責任が生じ、単純に固定資産と同じ減価償却を行ってよいのか、判断するのが非常に難しくなります。

 このような美術品は、法人税法でいう、「時の経過によりその価値の減少しないもの」に当たります。

 そこで本稿は、このような価値ある美術品を減価償却資産とするのか、非減価償却資産とするのかについて、どう判断すればよいか考えてみたいと思います。

美術品が減価償却資産か否かの判断は3つの要件に合うか否かで決める


 以前の法人税法では、一種の外形基準(簡単に言うと例外)として、「美術関係の年鑑等に登載されている作者」をプロの作者として通用するものとみなし、その者の制作に係る書画、彫刻、工芸品等は、原則として減価償却資産には該当しないとしていました。

 また、その外形基準だけでは全てを律しきれないため、「取得価額が1点20万円(絵画にあっては、号2万円)未満であるもの」を、減価償却資産と取り扱うことができることとされていました。

 しかし上記のような取扱いは、美術品等の多様化や経済状況の変化等により、現行基準による減価償却できる美術品等の範囲が取引実態と乖離してきました。

 そこで、平成27年1月1日以後に取得する美術品等については、その実態に応じて取扱いが見直されました。

 改正後の取扱いは、
  • 多くの者の目に触れる場所の装飾品として用途が限定されている
  • 転売等しようとしても美術品等としての実質的な価値がないと見込まれるもの
  • 取得価額が1点100万円未満
 これら3つの要件を満たした資産については、「時の経過によりその価値が減少することが明らかなもの」として、減価償却資産として取り扱うことが可能になったのです。

美術品は高騰中〜適性価値の見極めが重要に


 美術品を減価償却資産とする要件が緩和したも相まって、近年では美術品の価格が高騰しつつあります。

 ただし取得価額が「適正価額」とは言えない状況が散見されていたり、絵の出処が不透明なケース(偽本を掴まされる等)や、マネーロンダリングの一環に巻き込まれる事例も増えています。

 せっかく取得した美術品がゴミとなれば、そこにかけた時間やお金は何の意味も持たなくなってしまいます。

 会社で美術品を購入する際に、その適性価値を見極める能力が必要となること、本当に意味がある美術品の所蔵を目的とするべきことは、言うまでもありません。

Photo credit: jnkypt via Visualhunt / CC BY-SA(執筆者:北村 光宏)

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