コストコが自社の婚約指輪を「ティファニー」と称して販売し続けた2つの理由

 米国で会員制量販店大手のコストコが、高級宝飾ブランド・ティファニーの名前を使った婚約指輪を許可なく販売していた件について、ティファニー側が21億円の損害賠償請求を認められ勝訴しました。ティファニーの主張が当たり前なのは良いとして、コストコがなぜ自らの正当性を主張したのかが気になります。詳細を解説いたします。

コストコが「ティファニー」名乗り自社の婚約指輪を販売


 米会員制量販店大手のコストコが、高級宝飾ブランド・ティファニーの名前を使った婚約指輪を許可なく販売していた件について、ティファニー側が訴訟を起こし、その判決が8月14日に出ました。

 判決によれば、コストコ側は、「ティファニー」と記載した看板を付けて、ブランド物の高級時計の隣に配置して販売していました。

 また、コストコの販売員は顧客からの問い合わせに対して、販売していた指輪は「ティファニー」リングだと返答していたようです。

 コストコのこれらの行為について、ニューヨークの連邦地裁はティファニーの訴えを認め、ティファニー社の商標「ティファニー」の商標権を侵害するものであると判断し、コストコ側に合計で約21億円を支払うよう命じました。

 ここまでの流れを見ると、ティファニーの主張が通るのが当たり前のように感じますが、それ以上に、コストコがなぜ自らの「パクリ」とも言える行為を正当化するために争ったのかが気になります。

 以下、詳細をご説明しましょう。

コストコが婚約指輪を「ティファニー」と記載して販売し続けた2つの理由


 コストコが婚約指輪を「ティファニー」と記載して販売し続けたのには2つの理由(言い分)があります。

1)「ティファニー」は既に婚約指輪の一般名称となっている


 コストコの1つ目の言い分、それは「ティファニー」という名前が、既にダイヤモンドを使った婚約指輪のデザインの一般名称となっている、というものです。

 コストコの言い分通り、「ティファニー」が一般名称であると認められれば、「ティファニー」の名称を使っても商標権侵害にはなりません。

 例えば、チョコレートについて「チョコ」は一般名称であるので、「チョコ」という名称は、チョコレートの名称として使用する限り、取引に必要だから誰でも使用することができるようになっています。

2)包装を変えているので混同を生じない


 コストコは自らの行為の正当化する理由の2つ目として、ティファニーの特徴である水色の包装を使っていないことを上げています。

 ティファニーは、自社のブランドをより記憶してもらうため、統一的に水色の包装を使用しています。

節約社長

 コストコとしては、水色の包装を使った指輪であれば、消費者はティファニー社製の指輪であると認識するが、水色の包装を使っていない指輪は、ティファニー社製の指輪でないことが容易に認識できると主張したいのです。

日本でコストコと同じことをしたらどうなる?


 上記にあげた2つの理由で、コストコは「ティファニー」の名称で指輪を売っても、消費者がティファニー社製の指輪とは勘違いしない、と抗っているのが今回の係争案件です。

 ただし、冒頭でお伝えしたように、コストコの主張はいずれも退けられ、ティファニー社の商標権侵害が認められる結果となっています。

 今回は米国で起きた係争案件ですが、日本で同様の事件が起これば、同じように商標権の侵害であると判断される可能性が高いでしょう。

 ただし、損害賠償額は大きく異なります。

 アメリカでは、「3倍賠償制度」等があり、実際の損害額を超える損害賠償が認められるが、日本にこのような制度はありません。

 従って、今回のケースを日本に当てはめれば、実際の損害額が上限となるため、損害賠償額は多くて4億円程度しか認められないでしょう。

 それなら、日本で同じことをやれば、“やり得”かというとそうではありません。

 利益が手元に残らない上に、多額の訴訟費用を負担することになりますし、極めて悪質なケースは刑事事件になり、逮捕・起訴される可能性があるからです。

 アメリカよりは傷が浅いというだけであり、得することはあり得ないという点を覚えておきたいものです。

Photo credit: FaceMePLS via Visual Hunt / CC BY(執筆者:弁理士 渡部 仁)

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