売上1億円の会社をマネーフォワードに8億円で売却したクラビスから学ぶこと

 クラウド会計ソフトを提供するマネーフォワードが、税務署類の電子化サービスを手がけるクラビスを8億円で買収しました。なぜマネーフォワードは売上1億円のクラビスに対して8億円を支払ったのか?自社事業を将来売却したいと考える経営者の方に向け、クラビスから学べる2つのポイントをご紹介します。

マネーフォワードが売上1億のクラビスを8億で買収


 クラウド会計ソフトを提供するマネーフォワードが、クラビスという会社を8億円で買収すると報道されています。

 参考URL:マネフォ、会計データ記帳代行のクラビスを買収 :日本経済新聞

 クラビスの直近の売上は1億円(17年6月期)とのことです。

 売上1億円の会社を8億円で売却された、という話を聞くと、ご自分で会社を経営されている方、特にITベンチャーは目の色を変えると思いますが、なぜこのような買収劇が起きるのでしょうか。

マネーフォワードが買収で大盤振る舞いしたワケ


 日経新聞のタイトルは、クラビスのことを「会計記帳代行サービス」と紹介していますが、詳しく紹介すると、スキャンした税務書類から会計データを作成するサービス「STREAMED(以下、ストリームド)」というサービスです。

 マネーフォワード自体は今まで自社サービスについては、あくまでも会計ソフトの提供や税理士の紹介という領域に留まっていましたが、今回の買収によって、遂に税務書類の電子化サービスに事業ドメインを広げた形になります。

 皆さんもご存知かと思いますが、平成28年度の規制緩和によって、スマートフォンやデジタルカメラを利用し、領収書を電子保存することが認められました。

 クラビスのストリームドは今回の規制緩和で、個人事業主、法人、会計事務所に必要とされるど真ん中のサービスであり、このサービスを取り込むとマネーフォワードは、会計周りの作業をほぼ全てネットワーク上に取り込むことが可能になります。

 マネーフォワードとしてはストリームドを取り込み、一気に有料ユーザーの囲い込み攻勢に出ることでしょう。

 確かにマネーフォワードは9月に上場し40億円以上の資金調達をしたものの、まだ大赤字の会社であり借入も10億円以上あります。

 有料ユーザーを圧倒的に増やして囲い込まなければ彼らにも先が無く、迷っている時間はないのです。

 このように買い手側にとってどうしてもほしいサービスであり、しかも今回のマネーフォワードのようにタイミングが絶妙である場合か、買い手にありえないほどの勘違いがなければ、売上の何倍もの金額で高値買収は発生しません。

売り手側のクラビスから学ぶ高値で会社を買収する2つのポイント


 一方で売り手側であるクラビスの巧者ぶりにも特筆すべきところがあります。

 地味ではあるがこれから広がりを見せる大きな市場へ先行して参入し、1億円とはいえ着実にニーズを捉えて売上実績を作っていたからです。

 それだけの売上があれば、ユーザーもいて、すでにバグ修正や顧客ニーズの汲み取りなどはある程度済んでいるはずでしょう。

 いくらポテンシャルはあっても売上実績がなければ、「買い手はリスクの高い案件=自分達でやっても売上があがるとは限らない」と判断し、なかなか買収に踏み切れません。

 まだ1億円といえども、しっかりとした売上実績があることも今回のような売却劇が実現した理由の1つでしょう。
  • ニーズのある拡大市場への勇気を持った先行参入
  • 売上実績を作る
 これら2つのポイントをクラビスが抑えていたことは、これから自社事業の売却を目指す経営者の皆様にとってお手本となるでしょう。(執筆者:大原達朗)

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