効かぬ抗菌薬を6割超の医師が風邪で処方〜健康保険制度の崩壊は近い

 保険料を支払えば3割程度の医療費を負担するだけで良い、という世界でも類を見ない「国民皆保険制度」を実現してきた戦後ニッポン。しかし、社会構造の変化により収支は慢性的な赤字となっています。しかし、意味のない抗菌薬の処方等に見る医療保険の無駄遣いの傾向は根強いものです。政府による強い「無駄遣いを無くせ」というアナウンスがなければ、今後も赤字拡大、国民負担増大は必須です。

使用を減らす方針が国から出ても医師の60%が抗菌薬を処方する


 かぜの治療にあたって60%を超える医師が、来院する患者が希望すれば、抗生物質などの抗菌薬を処方しているという調査結果が発表されています。

 参考リンク:かぜに効かない抗菌薬 6割超の医師が処方:NHK

 本来、抗菌薬はウイルスが原因のかぜには効きません。ところが患者側が抗菌物質が風邪に効くと誤解し、処方を求めるケースが多いのです。

 というのも、昭和50年代以降、抗菌薬はその単価の高さから、医薬品メーカーと医師会がタッグを組み、使用推奨を積極的に勧めてきたことで、国民全般に「何かあったら抗菌薬(抗生物質)」という認知が広まっているからです。

 政府は、2020年までに抗菌薬の使用量を3分の2に減らす方針を打ち出しています。

 また、風邪で受診した子どもに対して抗菌薬は不要と説明して、処方しない場合、診療報酬を加算する試みを今年の4月から始めていますから、これは逆行した動きとしか言えません。

 「顧客(患者)が求めているから」と言えば口当たりは良いかもしれませんが、果たしていかがなものでしょうか?

 決して見過ごせる問題ではありません。

抗菌薬の無分別な処方が赤字の健康保険制度を更にダメにする


 というのも、国の社会保障費は火の車で、薬の保険負担をしている地方自治体の健康保険は殆どが大幅赤字に苦しんでいます。

 保険料を支払えば3割程度の医療費を負担するだけで良い、という世界でも類を見ない「国民皆保険制度」は既に破綻しているのです。

 財政がもつのであれば、制度趣旨は素晴らしいものとして称賛されるに値します。

 しかし、人口分布の変化に伴い、多くの老人を少ない若者が支援するという図式へ移行し、財政悪化が進んでいます。

 その中で少しでも無駄を減らさなければならないのに、効果がないと分かっている抗生物質を求める人がおり、利益が出るからと処方する医者がおり、その多くを赤字の中で国庫が負担しているのです。

 国はこうした事実を本来はもっと国民に知らせるべきで、そのうえで解消へ向けて努力をすべきです。

 そうならないのは、選挙の仕組みでしょう。

 こんなに財政状況が苦しい。だから節約に協力してほしい。と政府が頼む先は老人層なわけです。しかし、彼らはそれを嫌がります。

 それでも候補者達の多くは、財政の目処もついていないにも関わらず、「私達は健康保険制度を維持します」と選挙期間中に主張します。

 票が必要だからです。

 こうして、国民皆保険制度は、現在の状態を維持できるかどうかを検証・議論することなく、慢性的な赤字垂れ流しとなっています。

政府は健康保険制度の財政状態を更に国民へ知らせるべき


 健康保険の財政が悪いことは、「健康保険 財政」などのキーワードをグーグルで検索すれば、いくらでも数値も情報も出てきます。

 ほとんどの市町村が健康保険については散々たる結果です。

 これを踏まえて、市区町村が担ってきた国民健康保険(国保)の運営主体が、今年から都道府県に移ったことは、この制度がどれだけ厳しいものかを物語っています。

 しかし、国民の多くは、このような事実に目を向けず、「3割負担で医療サービスが受けられる」という目先のメリットにとらわれています。

 医師や医薬品メーカーの多くも、自分たちが国庫によって生かされてきたことや、これからその支援が無くなった時にどう生き延びればよいのか、考えていません。

 願わくば、この根本的な問題を解決すべく、政府が、必要な情報を更にオープンにディスクローズし、国民が自ら現在の制度を有効に生かす方法を考え抜くよう、啓蒙することが必要だと思います。(執筆者:大原達朗)

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